ボーイングが進めるデジタル生産は設計から生産現場までを対象とする広範な概念だが、どこまで実現しているのか。MBEに注目

 

新型機でボーイングが次に狙う目標は、航空機設計と生産工程を統一フレームワークMBEで結合することだ。Credit: Boeing



ーイングの最近の製品開発戦略の浮き沈みを通して、2015年以来一貫しているメッセージがある。次の新型民間航空機の開発開始は、旅客機自体の設計とあわせ、より低コストの生産システムの完成にかかっている、ということだ。

  • MBEを軍用から民間へ拡大するのが重要課題

  • デジタル計画には業界標準のインターフェイスが重要

 この戦略の中核となるのが、ボーイングが進めているデジタルトランスフォーメーションだ。これは、情報交換の障壁がすべて取り除かれてどのように仕事が達成されるかを、再構築するボーイングの基本概念だ。この移行は、ボーイング社がモデルベースエンジニアリング model-based engineering(MBE)システムを全面採用し、システム要件、設計、分析、検証から概念設計、開発、運用まで、新型航空機の開発をモデリングでサポートすることに代表される。

 

 

 ボーイングのMBEフレームワークを示す図では、下半分が従来の物理システムエンジニアリングに基づく設計と納品のプロセス。上半分がモデリングとシミュレーションで物理システムを仮想的に表現している。現実世界と仮想世界の間にはデジタルの糸が通り、モデルを物理システムの設計にリンクさせ、2つのパスが継続的に相互に情報を提供し、同時進行を可能にしている。

 ボーイングは,数十年にわたる軍事および商業プログラムにおける高度な計算機設計の取り組みをもとに、T-7A 高度練習機、MQ-25 無人空中給油機、オーストラリアのATS (Airpower Teaming System) など最近のプロジェクト開発を加速するため、本格的なデジタルMBEの取り組みを実施している。T-7Aでは、品質検査に合格した部品数が75%増加し、開発サイクルが36カ月に短縮され、フルサイズの確定組立技術を使用し組立時間が80%短縮された。

 しかし、ボーイングの課題は、このプロセスを民間に移管することだ。ボーイングの技術・試験・テクノロジー部門のチーフエンジニア兼上級副社長グレッグ・ヒスロップGreg Hyslopは、「軍用機の要件は大型商用機の要件と大きく異なります」「私たちが次の民間航空機で行っているのは、航空機設計に適用しているあらゆる厳密さを、生産システムの設計に適用することです」とヒスロップは言う。「航空機に変更があった場合、工場での変更への影響や、工場で何か変更する必要があるか確認できるようにするためです」。

 MBEのインタラクティブなフィードバック機能を使うことで、ボーイングは隠れた問題や課題を事前に十分回避できるとともに、設計の柔軟性を高め、開発期間とコストの両方を削減できるはずだ。

 「私たちがここでやろうとしていることは、ボーイングの航空機製造の歴史に新たな一章を加えることです」「航空機設計が工場の性能に与える影響を確認できるように、工場の性能を厳密かつ正確に予測するにはどうしたらよいでしょうか?」「私の知る限り、誰も私たちがやりたいレベルでそれをやっていません。非常に難しい問題です」「しかし、T-7Aのようなプログラムで、その利点が現れているので、非常に有益なのです」(ヒスロップ)。

 「開発プロセスを進める中で、航空機の性能を予測することになりますが、同時に工場の性能も予測することになるでしょう」と指摘します。そして、こう付け加えます。「航空機の要件を把握するのと同じように、生産システムの要件もシステムエンジニアリング環境で把握することになるのです」。その結果、航空機と生産システムの両方で設計の柔軟性が高まると、ヒスロップは言う。

 「マージンがあるところが把握できますし、工場がうまくいっていないことがわかったら、工場の性能を維持するため航空機の設計をどう変えればいいのでしょうか?

航空機と工場の両方の設計が単一のMBEフレームワークで結合された形で商用製品のデジタル移行を正式化するために、ボーイングは2021年9月に統合製品チーム(IPT)を設立した。このチームは、同社のエンジニアリングプラクティス、プロセス、ツール担当の元副社長であるリンダ・ハプグッドLinda Hapgoodが率いており、社内の他の取り組みや経験を基に構築している。その中に、2018年に英国で開設された同社の「未来工場」試作生産システム施設におけるデジタル対応インフラと先進プロセスで得られた経験や、キャンセルされた新中型機、787や最近の軍事プログラムで得られた教訓などが含まれる。

 「私たちは何年もこの旅をしてきました」とヒスロップは言う。「商業的な面では、787は私たちをここまで成長させ、多くの教訓を学びました。うまくいったことも、うまくいかなかったことも、すべてこの新設計に生かされているのです」「この設計は、私たちが次の民間航空機の開発にどう取り組むかの先駆けなのです」と付け加えた。

 

MQ-25MBEの実践は、無人機MQ-25などのプログラムで証明されたが、商業的な応用には、大幅にスケールアップする必要がある。Credit: Brian Everstine/AW&ST

 

 

 多くの教訓が得られ、T-7AやMQ-25のような先駆的プログラムがコンセプトを証明した今、ボーイングが全く新しい民間航空機を立ち上げるためにMBEを完全導入する前に立ちはだかるものは何か?「それは常に規模であり、そうでなければならないのです」とヒスロップは言う。「今後数年間で解決しなければならない難しい問題です。防衛計画のいずれもが、供給基盤や必要な認証のレベルという点で、商業機の開発計画の規模には達していないのです」。

 ヒスロップはまた、最近報告されたT-7AとMQ-25の損失(それぞれ3億6700万ドルと7800万ドル)は、MBEプロセスを使用する欠点の反映ではないと主張している。「どんな開発プログラムにも課題はあります。このプログラム2つは、要求内容や初めてとなる能力を考えると、従来の航空機の開発プログラムよりはるかに速いペースで現れると思います」。

 さらに787プログラムの「傷跡組織」に言及し、ヒスロップはこう付け加えた。「私たちは、何を避けるべきかはわかっています。そして、この試みを成功させるため、絶対に妥協できない重要なことが分かっています。それが、この取り組みの重要な部分なのです」。

 民間航空機プログラムでは、一般的な軍用機よりはるかに大規模な供給ネットワークが必要となるため、完全な商用化を進めるには大きな課題があります。「もし、私たちが自分たちの仕事のことばかり気にしていたら、恩恵は受けられない」とヒスロップは言います。「独自のインターフェースではなく、業界標準を利用することで、可能になると考えています」。

 独自のインターフェースではなく、業界標準に基づいたデジタルスレッドを定義することで、ボーイング社は業界全体で使用されている様々なツールセットに対応することを要求されるのではなく、サプライヤーとシームレスに作業することを計画している。「デジタル・スレッドを定義する際には、業界標準に従わなければなりません。簡単なようで難しいことです」という。

 「そのためには、サプライヤーにも業界標準を理解してもらわなければなりません」。ヒスロップはこう指摘する。「ボーイングの仕様ではなく、インターフェイスをどう定義するかという業界の仕様なのです」とヒスロップは指摘する。

 また、T-7Aで見られたような、開発・製造サイクルの短縮の可能性はどうか。「大型民間機でもそうなるかわからないが、楽観的に見ている理由の一つ」とヒスロップは言う。T-7A試作機は量産機に近いものだったが、「しかし、試作機は認証プログラムを経る必要がなかったので、結果の予測ができません」とヒスロップは付け加えまた。「しかし、そのおかげで機体の完成が早くなり、初期の機体で手直しが少なかったのです」。

 ボーイングのCEOデイヴィッド・カルホーンDavid Calhounが、次の新型航空機の開発開始は「2、3年先」と頻繁に発言していることについて、ヒスロップは「時間はあります。準備が整うまでは行かないし、この問題を解決していく決意です。解決できないとは思っていません」。■

 

 

Boeing's Digital-Design New Airliner Plan Faces Long Road Ahead | Aviation Week Network

Guy Norris June 24, 2022

 

Guy Norris

Guy is a Senior Editor for Aviation Week, covering technology and propulsion. He is based in Colorado Springs.


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