Photo: NTSB
訴訟、生産の遅れ、株価下落は、ボーイングが迫られる負担の一部にすぎない
アラスカエアラインズは、ボーイングに対し、737 MAX 9の欠航による補償金1億5,000万ドル(返金、再宿泊費用、従業員の残業代、AS1282便の乗客1名につき1,500ドル)を求めている。
AS1282便の乗客は、ボーイングとアラスカエアラインズを相手に、事故による身体的・精神的苦痛に対する損害賠償を求める訴訟を2件起こしている。
アラスカエアラインズの事故後、ボーイングの株価は18.9%下落し、時価総額で280億ドル以上が消えた。
アラスカエアラインズは、737 MAX 9の全機を3週間地上待機させなければならなかったことに対し、数百万ドルの補償を求めている。これらすべての行動と出来事を考慮すると、1月5日のドアプラグ事故で、ボーイングはどれだけの損失を被ったのだろうか?
航空会社への補償
1月26日付の『アンカレジ・デイリーニュース』紙は、アラスカエアラインズ幹部がボーイングに少なくとも1億5000万ドルの賠償を求めていると報じた。同航空の最高財務責任者(CFO)は、払い戻しを余儀なくされた航空券や、他社の乗客向けの航空券購入費用による損失相当分と述べた。アラスカはまた、3,000便以上の欠航便の処理を迫られた従業員への超過勤務手当を支払った。同社はAS1282便の乗客一人一人に1500ドルも提供していた。
「欠航による当社の利益への影響分が全額補償されるよう期待しています」。-アラスカ航空、最高財務責任者、シェーン・タケット
上記1億5,000万ドルに運航再開前の機体点検に費やされた整備チームの時間も含まれているかどうかは言及されていない。ロイター通信によると、アラスカは737 MAX 9の検査に約12時間を各機で費やしたという。
アラスカエアラインズは金額を公表しているが、MAX9をさらに多く保有するユナイテッドエアラインズからは今のところ発表がない。ユナイテッドも、機体を運行停止させ、フライトをキャンセルし、乗客を再搭乗させ、検査を実施しなければならなかった。さらに、アラスカと同様、ユナイテッドの今月の利益も打撃を受けた。ユナイテッドも、間違いなくボーイングにも補償を求めるだろう。
乗客からの訴訟
AS1282便の乗客から2件の別々の訴訟が起きているようだ。
The Hillによると、最初の訴訟は事件発生から1週間後の1月12日に起こされた。Stritmatter Firmによってワシントン州キング郡高等裁判所に提出されたこの訴訟は、6人の乗客と1人の親族に対する損害賠償を求めている。法廷文書によると、原告はこの事件によって肉体的・精神的苦痛を被ったと主張している。
同訴訟では、事件に対しボーイングの最終的な責任が強調されている。
『シアトル・タイムズ』紙が報じたが、1月16日、同じキング郡で2件目の訴訟が起こされた。カークランド・レポーター紙によれば、この訴訟は3つの訴因を提示している:
ボーイング社に過失1件
ワシントンの製造物責任法に基づきボーイングへ厳格製造物責任の訴えを1件。
アラスカ航空に過失1件
被害を受けた乗客の代理人であるマーク・リンドクイスト弁護士は、ドア吹き飛ばし事故が依頼人や他の乗客に「強い恐怖、苦痛、不安、トラウマ、肉体的苦痛、その他の傷害」をもたらしたと指摘している。
原告もボーイングも、訴訟が長期化することを望まない可能性があり、ボーイングとしても、これ以上メディアから否定的な注目を浴びることを避けたいだろう。従って、これら2つの訴訟については、(非公開のままであろう金額で)和解が成立する可能性がある。
株価の急落
企業の市場価値は常に変化するものだが、事件後のーイング株価は顕著な下落を見せた。1月5日から25日の間に、ボーイングの株価は18.9%下落し、ロイターはこの下落によりボーイングの市場価値280億ドル以上が帳消しになったと指摘している。
事件前、ボーイングの株価は10月下旬の安値から順調に回復し、12月末には264ドルの高値をつけていた。
記事掲載の時点で、ボーイングの株価は数ドル回復していたが、この損失は1月31日にボーイング株主が訴訟を起こすのに十分だった。ロイター通信によると、投資家の集団訴訟は、品質と航空機の安全性に関するボーイングの声明が虚偽で誤解を招くものであったとしている。
言及されているボーイングの声明とは、2018年と2019年にそれぞれインドネシアとエチオピアで起きた737 MAXの墜落事故を踏まえ、同社が「安全性に『レーザーフォーカス』し、利益のために安全性を犠牲にはしない」と約束していたものだ。株主は、ボーイングの組立ラインにおける「不十分な品質管理」が隠蔽されたため、同社の株価がつり上がっていたと主張している。この集団訴訟案に関する金額は公表されていない。
生産量の低下、機体認証の遅れ
ボーイングに大きな影響を与えるコスト要因は他にもある。
1月24日の米連邦航空局(FAA)の発表でボーイングに対し、MAXの生産拡大を認めないと通告した。「FAAはボーイングとそのサプライヤーに対する調査を行い、監視を強化している」と声明にある。
FAAはさらに監督活動の強化には以下が含まれると述べた:
ボーイング737 MAXの新型機の生産に上限を設け、説明責任と要求される品質管理手順の完全遵守を確保する。
ボーイングが製造要件を遵守しているか精査する調査を開始する。
ボーイング社の全事業所での立ち会いを増やし、新型機の監視を積極的に拡大する。
リスクを特定するデータを注意深く監視する。
品質管理と権限委譲に関する、安全に焦点を当てた改革にむけた分析を開始。
生産機数で上限が設定され、FAAがボーイングの活動を綿密に調査しているため、生産量の低下は確実視されている。アラスカボーイングが今年後半に予定している737 MAXの納入に遅れが出ることを想定している。
規制当局の監督強化は、未認証の737 MAXファミリーにも影響を及ぼしている。ボーイングは737 MAX 7に関しFAAに提出済みの安全免除申請を取り下げると発表した。FlightGlobalによると、この免除は同機のエンジン防氷システムに関するもので、ボーイングは適切な修正プログラムを開発するためさらに9~12カ月を要するという。これは、MAX 10にも影響を与える可能性がある。
風評被害とビジネス損失
ボーイングにとってさらに目に見えないコストがある。風評被害と潜在的なビジネス損失だ。以前は搭乗する機体の種類に無関心だった旅行者が、突然、次のフライトがボーイングかどうか気にするようになってきた。
この風評被害の例として、以下がある:
オンライン旅行予約サイトのカヤックは、顧客がフライトを探す際に737 MAX 9を含む旅程をフィルタリングできるようにした。このウェブサイトは、同型機への搭乗を避けようとする旅行者のウェブトラフィックが急増したと報告している。
アラスカエアラインズの事故から数週間後、主要メディアは航空機が関与する日常的な事故について報道し始め、事故が特にボーイング製航空機に関わるものであることを強調した。たとえば、タキシング中の翼の衝突にもかかわらず、「ボーイング機同士の地上衝突」という見出しをつけたサイトがいくつもあった。
さらにこのドアプラグ事件で、ボーイングはアメリカの深夜トーク番組でジョークのネタにされた。
評判は落ちたものの、ボーイングは今回のドアプラグ問題で、実際にはそれほど大きなビジネス機会を失うことはないかもしれない。エアバス、ボーイングの2社独占体制がしっかり健在であり、両社は数年にわたる納期残を抱えているため、エアライン側にはナローボディ機で選択肢がほとんどない。
だがユナイテッドは、MAX10でさらなる遅延が予想される中、A321neoの購入に乗り出している。
エアバスが得をする?
ボーイングの損失はエアバスの利益だと推測する人もいるだろう。しかし、疑わしい利益を定量化するのは難しい。欧州の航空機メーカーであり、ボーイングの最大のライバルであるエアバスは、すでにA320neoファミリーで膨大な受注残を抱えている。エアバスが自社製品に対する需要の高まりから価格を引き上げる力を持っていることは想像に難くない。しかし、定価はもはや公表されておらず、実勢価格は顧客との交渉次第で変動するため不明だ。
では、AS1282便の結果、ボーイングにかかった総費用はいくらになるのだろうか?残念ながら、これらの問題や行動をすべて合算してすっきりとした数字にするのは難しい。アラスカエアラインズが1億5,000万ドルの賠償を求めているのであれば、ユナイテッド航空はそれ以上ではないにせよ、少なくとも同額の賠償を求めると想像できる。乗客の訴訟(および/またはその結果としての和解)が同じ規模に達する可能性は低い。
ただし、市場価値とは変動するものであり、重要になるのは損失が実現したとき、つまり、株式が売られたときだけである。確かに、ボーイングにとっての直接的および間接的な損失は数十億ドル規模になる可能性があるが、これは2019年と2020年のMAXの飛行停止措置による直接的な損失200億ドルには遠く及ばない。ただし、間接的な損失は600億ドルと見積もられている。■
How Much Will The Alaska Airlines Incident Cost Boeing?
BY
https://simpleflying.com/how-much-will-the-alaska-airlines-incident-cost-boeing/
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