2022年1月15日土曜日

民間機にもミサイル妨害装置の防御機能が搭載される....フェデックスが赤外線妨害装置搭載を申請し、FAAが米運輸省と協議

 

VALENTIN HINTIKKA/WIKIMEDIA COMMONS/NORTHROP GRUMMAN

 

 

赤外線対抗装置が民間機に搭載された例は皆無だが、フェデックスが同装置の機能に注目している

 

連邦航空局(FAA)は、熱探知ミサイル防御用赤外線対策装置をフェデックス保有機に搭載する特別条件を米国運輸省に提案している。民間航空機、それもフェデックス機に赤外線対策搭載が提案された事は以前にもあったが、今回の申請は、民間航空分野でもミサイル防衛の必要性が依然としてあることを示している。

 

 

 

FAA提案では、「近年、海外事例で、民間航空機がマンパッドシステム(MANPADS)から発砲を受けている」し、脅威に対抗するため、FAAは「熱探知ミサイル対抗策として、赤外線レーザーエネルギーを機外放出するシステム」をフェデックス機に搭載する特別条件を求めている。現在、民間航空機の耐空証明規定には、こうした攻撃手段への安全基準がないとFAAは指摘している。

 

申請書の文言から、フェデックスがDIRCM(Directional Infrared Countermeasure system指向性赤外線対抗装置)の搭載を希望していることがわかる。こうした自己防衛システムは、軍の輸送機やヘリコプターに広く普及している。戦闘機にも搭載が進んできた。DIRCMは、飛来するミサイルに変調レーザー光線(赤外線)を照射し、シーカーを混乱させる、あるいはミサイルを標的の航空機から引き離す機能がある。

 

今回申請にあるエアバスA321-200は、A321の長距離型で、民間旅客機として主に使用されている。ただし、フェデックスでA321-200運航は始まっていないが、同型機は大手貨物会社数社から将来の貨物輸送候補として注目を集めている。

 

2004年、イスラエルの航空会社エル・アルが民間航空会社で唯一、自社機材にミサイル対策システムを搭載したが、DIRCMではなく、フレア式(消耗型デコイ)で、フレア発火や取扱いの難しさから、その後レーザー式C-MUSICに移行した。C-MUSICは多くのシナリオで、高度な脅威に対し効果的をより発揮するとされている。

 

国際民間航空機関によれば、1970年以降で民間航空機少なくとも42機にMANPADSから攻撃があったとの報告がある。ケニアのモンバサで乗客260人を乗せたイスラエル機は、離陸時にMANPADSミサイルと思われる破片に襲われたが、最小限の損害でテルアビブに安全に着陸できた。2003年には、イラクからバーレーンに向かうDHL貨物機が、MANPADSミサイルで左翼を撃たれ、危険な緊急着陸を余儀なくされた。同機の左翼は激しく損傷し、油圧制御を完全に失ったが、乗員3人はバグダッドに戻り、エンジン推力の調整で機体を制御し、着陸させた。

 

WIKIMEDIA COMMONS/AELYTAH

DHL運航のエアバスA300貨物機が2003年にミサイル攻撃で大きく損傷した

 

 

フェデックスはミサイル対抗措置の試験搭載を2006年に開始している。AN/AAQ-24原型のノースロップグラマン製ガーディアンDIRCMポッドをマクドネルダグラスMD-10に搭載した。ノースロップ・グラマンはフェデックスと共同しフェデックス専用システムを設計し、10分で着脱できるカヌー型腹部ポッドに搭載し、空気抵抗を最小限にした。

 

NORTHROP GRUMMAN

 

同装置は民間航空機向けミサイル対抗システムの開発と実証を目指す国土安全保障省(DHS)の「対MANPADSプログラム」の一環で搭載した。同プログラムで、国土安全保障省は、指向性赤外線対策システム2種類ノースロップ・グラマン社のガーディアンとBAEシステムズ社のジェットアイを、29種のMANPADSシステムに対しテストした。

 

WIKIMEDIA COMMONS/ALAN RADECKI

ノースロップグラマンのガーディアンポッドがエアアトランタヨーロッパの747-300に搭載され、同機はフェデックスが試験用に借り上げた

 

DHSは飛行試験1万6000時間以上で、両システムはともに「有効性要件を満たしている」「襲撃シナリオ多数でミサイル複数に有効に作用する」と評価した。同調査は、航空会社によるDIRCMシステム搭載は「相当のコストと航空会社経営への影響を伴う」形ながら実施可能であり、3,600機への装備費用は300億ドル以上と結論付けていた。また、DHSは、国際的な設置・使用のため、輸出規制の緩和が必要と指摘した。 

 

2019年にDHSは、空港上空65,000フィートで旋回飛行する高高度長時間滞空無人機で、MANPADSにスタンドオフ防御が可能かの研究を評価している。プロジェクトCHLOEと呼ばれる同研究では、無人機はMANPADSを「探知、追跡、レーザー照射」できるが、性能要件を満たせないと判明した。

 

平均的な国際空港の航空交通量を考慮すれば、MANPADS襲撃への防御を十分に行うには、各空港上空でUAV数十機を旋回待機させる必要があると指摘するアナリストもいる。また、上空6万5,000メートルの無人航空機(UAV)が、はるか下方の地上から発射されたMANPADにどのように防衛できるかも不明だ。ただし、当時は先進的なUAVが広く応用されるようになる前の段階であった。その他の手段として高高度を滞空する飛行船の活用の提案もあった。

DHS

 

 

DHS

プロジェクトCHLOE は将来の展望を示していたが...

 

大規模にテストしたにもかかわらず、プロジェクトCHLOEは実現しなかった。DHSは「Emerging Counter-MANPADS Technologies」プログラムでもその他防空システムも評価したが、DHSの2010年報告の該当部は大幅に黒塗りされており、技術内容は不明だ。

 

DHS調査の当時、DIRCMはまだ新装備だったが、その後、赤外線システムは重量、サイズ、コストが大幅に低下しており。現在では、大型航空機用赤外線対策システム(LAIRCM)のようなモジュール式システムが、軍用機多数に搭載されている。

 

肩撃ちミサイルの脅威は、バードストライクや既製品のドローンによる妨害ほど広く認知されていないが、MANPADシステム普及の中で、定量化把握が困難なままだ。2019年のRANDコーポレーション調査によると、ロシアが依然としてMANPADSの最大の輸出国で、2010年から2018年までだけでも1万台以上販売した。主にベネズエラ、イラク、シリア、リビアといった国々に輸出されており、RANDによれば、こうした国は「不安定さとMANPADS多数の保有の組み合わせから、保管分の漏えいリスクが最も高くなる」。反政府勢力の手に落ち、軍用機攻撃に使用されている。テロリスト集団や犯罪組織の手に渡った数量は分からない。

 

PUBLIC DOMAIN

ソ連製9K38イグラ(SA-18)のミサイルと発射機(上)と9K310イグラ-1(SA-16)のミサイルと発射機(下)

 

 

MANPADSの拡散に米国もある程度寄与してきた。1980年代を通じ、中央情報局はソ連と戦うアフガニスタン反政府勢力にスティンガーミサイルを供給していた。米国当局は、残ったミサイルを買い戻す高価で複雑な対応を開始したものの、多くが未回収のままだ。リビアのベンガジCIA分室は、ムアンマル・カダフィの兵器庫から略奪されたMANPADSを回収する任務を負っていた。

 

その他国もMANPADシステムを生産・輸出しており、RANDの2019年版レポートでは、フランスや中国がロシアや米国を引き離している。世界中で野放し状態のMANPADSの多くは数十年前に製造されたもので、経年変化を受けての機能性に議論の余地がある。

 

これだけ拡散しているが、不正規戦作戦将校を務めた米空軍退役軍人マイケル・ピエトルチャMichael Pietruchaは、War on the Rocksに寄稿し、MANPADSは「使用が難しく、打破は比較的簡単」と主張し、「バルカン、イラク、アフガニスタンで米国とNATOによる過去20年間の出撃数万回で、MANPADSが命中した固定翼機はわずか4機(うち撃墜は2機)だ」と述べた。ただし東ウクライナ紛争の初期段階でのMANPADSは、より効果的で致命的な効果を発揮していた。

 

しかし、FAA提出の資料が示すように、MANPADは依然として民間航空に少なくともある程度の脅威を与えている。フェデックスがこれから就航させる機材にDIRCMシステムを搭載する特別条件を申請していることから、貨物会社が特定のケースまたはルートでのみ使用するため同システムを検討している可能性がある。その場合、高リスク地域では有益な機能となる。ただし、申請書以外に資料が皆無にちかいため、フェデックスが同システムをどの程度利用するつもりなのか推察できない。

 

とりあえず、今回のFAA申請は、防空システムが間違った側の手に渡った際の危険性を改めて認識させてくれる。FAA要請がどうなるのか、またその他民間航空会社や貨物会社がフェデックスに追随するのか、興味深いところだ。■

 

 

FedEx Wants To Equip Airbus A321s With Anti-Missile Laser Countermeasures

 

BY BRETT TINGLEY JANUARY 14, 2022

 


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