Credit:
Shutterstock | Simple Flying
エアバスA380は史上最大の旅客機でプレミアムなイメージを大きく形作っている。この機体は静粛性、広々とした空間、良好な機内気圧でも有名だ。だがこれらは全て製造元であるエアバスの功績だ。時には機体そのものだけでなく、航空会社による構成で機体のイメージを決定づけることもある。
エミレイツはエアバスA380を豪華旅行の象徴へと昇華させるため多大な貢献をした。多くの人々が豪華な空の旅を想像する時、小型のビジネスジェットか、この巨大な二階建ての四発旅客機のいずれかを思い浮かべるだろう。エミレイツがA380をステータスシンボルへと形作った経緯について知っておくべきことを以下に述べる。
エミレイツはエアバスA380に「全面的に賭けた」
クレジット:Shutterstock
エミレイツはエアバスが販売したA380スーパージャンボ(251機)の半数(123機)を購入した。このジェット機に「全面的に賭けた」唯一の航空会社であり、2番目に多い発注社(24機)はシンガポール航空だ。エミレイツはA380を自社の主力機種の一つ(もう一つはボーイング777)に据えた。これほど多くのA380を購入したことで、エミレイツはほぼ単独でA380プログラムを支えた。そして同社が39機の注文を削減したことが、エアバスにプログラム終了を発表させる原因となった。
ほとんどの航空会社は、A380を処分したか、機材を縮小したか、あるいは後継機となる777XやA350が到着次第、すぐに手放そうと躍起になっている。これらの航空会社にとっての問題の一端は、小規模あるいは中規模の機体数で運航する場合、少数の同型機を維持するため高価な物流・整備・訓練システムを維持しなければならない点にある。2024年、エミレイツは世界で最も収益性の高い航空会社だった。これは同社がA380をいかに収益性の高い形で運用してきたかを物語っている。
エミレイツはA380を非常に高く評価しており、エアバスに対し改良型「エアバスA380neo」の生産再開を要請した。しかしエアバスは真剣に検討していない。同機は高コストであり、エミレイツ以外の買い手を見つけるのは困難と想像できるからである。エミレイツのティム・クラークCEOは、他社航空会社がA380を注文しなかったのはエミレイツを弱体化させるためだとまで発言している。
エミレイツのプレミアムキャリアとしての地位
クレジット:Shutterstock
エミレイツはA380を豪華な象徴として位置づけることに大きく貢献した。とはいえ、エミレイツの役割を過大評価すべきではない。A380は長距離路線向けに設計されており、こうした路線は国営航空会社が支配している。つまり、この機体を運航する全航空会社(例:BA、シンガポール航空、カタール航空、ルフトハンザなど)も、同機でプレミアム座席とサービスを提供している。
エミレイツはスカイトラックスの世界トップ100航空会社ランキングで常にトップ5入りしている(ただし1位と2位は通常カタール航空とシンガポール航空だ)。2025年にはキャセイパシフィック航空に次ぐ世界第4位、ANAを上回る評価を得た。他社同様、エミレイツもA380に豊富なプレミアム座席オプションを装備し、ほとんどの機体でファーストクラスを提供している。
エアバスA380の主要顧客(エアバス調べ)
エミレイツ航空 123機
シンガポール航空 24機
ルフトハンザドイツ航空 14機
ブリティッシュ・エアウェイズ 12機
カンタス航空 12機
とはいえ、エミレイツのA380プレミアム座席が必ずしも最高とは限らない。例えば、エミレイツがファーストクラスに割り当てた床面積には14のスイートが詰め込まれている。同じ面積でエティハドは10スイート、シンガポール航空はわずか6スイートしか設置していない。つまり、これら2社と比べると、エミレイツのファーストクラス座席あたりのスペースはかなり限られている。
エミレイツの「空のバー&スパ」
クレジット:Shutterstock
エミレイツがA380の豪華さを象徴する要素として導入した注目すべき施策の一つが、バーとシャワースパの設置だ。これらはファーストクラスとビジネスクラス客向けのデッキ上部に位置する。シャワースパとバー付き機内ラウンジを利用すれば、まるでプライベートジェットで飛んでいるような気分になれる。機内ラウンジの奥には大型テレビまで設置されており、衛星テレビの生中継を視聴可能だ。
機内ラウンジ導入の決断はリスクを伴うものだった。当時エミレイツは人気が出るか確信がなく、ビジネスクラス8席追加のコストに相当するため高額だった。ラウンジは96時間でビジネス席に再構成可能な設計となっていた。しかし間もなくラウンジが大成功であることが明らかになった。乗客は足を伸ばす口実を得て、専用のバーフードメニューを楽しめるのだ。
皮肉なことに、ボーイング747ジャンボでは逆の事情があった。ボーイングは当初、上層デッキをラウンジとする構想を持っていた。これが初代747-100の上層デッキ窓が極端に少なかった理由の一つだ。しかし航空会社はこのスペースをプレミアム座席に充てた。エミレイツA380のファーストクラスやビジネスクラスに搭乗した経験を持つ者は少なくても、機内にシャワーやバーが設置されていることは広く知られている。
A380とエミレイツブランドの結びつき
A380の半数を購入したことで、エミレイツは同機を自社の象徴とすることができた。他のどの機種も、これほど単一航空会社に独占されたことはない。エミレイツはボーイング777の最大運航会社でもあるが、同機は多数の航空会社が大量に運航しており、777をエミレイツのブランドイメージと結びつける機会は同程度には存在しない。
おそらく、コンコード以来の出来事だ。コンコードは誰もが認識できる唯一無二のジェット機であり、一般に広く知られる存在となった。ブリティッシュ・エアウェイズとエールフランス(短期間シンガポール航空も)のみがコンコードを運航した。これらの航空会社は特殊な機体を活用してブランドイメージを構築し、大西洋横断の高速路線を提供する唯一の航空会社となった。同様に、エミレイツはプレミアムキャリアとしての自社ブランドイメージを活用し、A380に対する認識を形成してきた。
コンコルドとスーパージャンボで共通する利点がもう一つある。認識のしやすさだ。航空機マニアの大半はA330、A350、787、777を容易に見分けられるが、一般の搭乗客はそれができない。巨大な2階建てのA380を見れば、ほぼ誰もが即座に認識する。対照的に、シンガポール航空がA350を主力機として導入しても、乗客の大半は見ただけではA350と787の区別がつかないだろう。
エミレイツの今後の展開
クレジット:Shutterstock
今後、エミレイツはA380の客室改装に数十億ドルを継続投資する。これにより全座席とレイアウトが近代化されるが、最も重要な点は通常エコノミー席を減らして56席のプレミアムエコノミー席を追加することだ。次の構成ではファーストクラス14席とビジネスクラス76席の数は変わらない。
エミレイツはA380と777の2機種体制からも脱却しつつある。同社は2024年末に初のA350を受領し、現在65機の注文機を急速に引き取っている。まもなく787ドリームライナーの受領も開始する。しかし最も注目すべきは777Xの大量発注だ。777Xは、エミレイツがA380と同様に大幅な影響力を及ぼす機種になるかもしれない。
ボーイング777Xの主要発注状況(ボーイング発表)
エミレイツ航空 205機
カタールエアウェイズ 124機
キャセイパシフィック航空 35機
シンガポール航空 31機
ルフトハンザドイツ航空 27機
777Xの確定発注565機のうち、エミレイツ航空だけで205機、ライバルであるカタールエアウェイズが124機を発注しており、2社だけで現在の受注の約半分を占める。中東の航空会社が次世代トリプルセブンを豪華旅客機としてA380の後継機に変えられるかは時間の問題だ。とはいえ777XはA380とは違う。777Xは生産中の機材として世界最大となるが、A380ほどの独自性や革新性は持ち合わせていない。
エアバスA380対ボーイング787ドリームライナー
エミレイツ航空がA380のイメージ構築で成し遂げたことは、ボーイングが787ドリームライナーで実現したものと類似点があると言える。違いは、ボーイングが先進複合材料を主体とした次世代旅客機を初めて開発した点だ(A350はその4年後に登場)。787は大型調光窓を導入した。重要なのは、窓は一般乗客が実際に気づく部分だということだ。
ドリームライナーは、より高い客室気圧や湿度向上など、ボーイングがマーケティングに活用できた数々の革新技術をもたらした。その驚異的な航続距離により、従来は大型機が独占していた世界の長距離幹線路線を運航可能にした。A380キラーでありハブ破壊機とも報じられたが、どちらも部分的に真実だ。ボーイングが787を「モダン」と謳う一方、エミレイツはA380を「豪華」と位置付けた。
時に些細な要素が、極めて複雑な製品のイメージ形成に大きく寄与する。ボーイングが「ドリームライナー」という名称を採用した点自体、見事なマーケティング戦略だったと言える。今後、エミレイツのA380機群は中堅年齢に達し、新型787や777Xへの置き換えが進むにつれ、その数は減少する見込みだ。エミレイツはまた、一部を稼働させ続けるために、自社機群をますます食い潰す必要に迫られるだろう。エミレイツがA380で達成したマーケティングの成功を、新型777Xで再現できるかは時が証明するはずだ。■
How Emirates Turned The Airbus A380 Into A Luxury Icon The World Can’t Forget
By
https://simpleflying.com/emirates-airbus-a380-luxury-icon/
アーロン・スプレイ
アーロンは飛行と世界旅行に情熱を持っている。世界中の航空博物館を訪れることを心がけながら、世界一周飛行を何度も経験した。ニュージーランド出身で、航空分野はじめ様々な分野に精通している
コメント
コメントを投稿