ケビン・ディーツ/ゲッティ・イメージズ
ボーイングのVC-25Bの納期遅延が積み重なる中、トランプはカタールの王族専用機747を、簡素なエアフォースワンに改造する計画を検討しているという報道がでてきた
注 この記事は軍事航空を主に扱うターミナル2と共通記事です
ドナルド・トランプ大統領の代替エアフォースワン探求が新たな展開を迎えたと報じられている。L3ハリスが、カタール王家が所有していたボーイング747-8を改造する計画が浮上してきた。背景には、ボーイングVC-25B大統領専用機2機の製造遅延が長期化している状況がある。既存の2機のVC-25Aは1990年に就役したもので、維持が困難になってきており、代替機が必要だからだ。しかし、通信、セキュリティ、生存性に関する厳格な要件を考慮すると、一時的な「代替機」の実現可能性には大きな疑問が残る。
ビジネスニュースチャンネルCNBCの報道によると、L3ハリス敵の路地ーずは元カタール航空の747型機の改造作業に着手する。同チャンネルは「件に精通した関係者」の話を引用しているが、この人物はメディアへの発言権限がない。TWZはL3ハリスにコメントを求めているが、回答は得られていない。興味深いことに、先月、同社がトランプの個人用ボーイング757(通称「トランプ・フォース・ワン」)の通信システム改造に関与しているとの報道が浮上していた。
2025年4月25日、ローマのフィウミチーノ空港に到着したVC-25A型エアフォースワン。バチカンでのフランシスコ教皇の葬儀に出席するため。写真:マルカオ・マントヴァーニ/ゲッティ・イメージズ
今年初頭、トランプが次期エアフォースワンの代替案を検討しているとの報道が流れていた。フロリダ州パームビーチ国際空港で元カタール王族のジェット機を視察したとの情報もあった。この2012年製造の機体は当初カタール王族の所有だったが、その後改装され、私有機に移行していた。
米空軍は現行のエアフォースワン機群(747-200型をベースにした2機のVC-25A)の置き換えを待っている。世界では747-200型はほぼ退役しており、部品調達やメンテナンス支援が年々困難かつ高コスト化している。この代替機として指定されているのは、ボーイングが747-8i旅客機から改造中の2機のVC-25Bだ。
747の生産は2022年12月に完全終了したため、VC-25Bは既存の2次使用機体から改造されている。このプロセスは決して簡単ではない。一部の製造会社が倒産したため、機体部品の調達に問題が生じ、また「進化する潜在的脅威」に対応するため要件変更も影響している。
昨年夏、最初の飛行試験の予定は2026年3月に延期され、16ヶ月の遅延となった。
ところが今週初めに、VC-25Bの納入が2029年まで延期される可能性が確認された。これにより、トランプは2期目中に同機を使用する機会を失うことにななる。当初は2024年12月に納入が予定されていた。
ボーイング747-8iジェット機のうち、VC-25B空軍1号機として改造中の1機が、2019年3月にテキサス州へ向けて出発し、改造作業を開始した。マット・ハートマン/ショアローン・フィルムズ
重なる遅延により、ボーイングは固定価格契約の同プログラムで20億ドルを超える損失を計上している。
これらの航空機には既に莫大な費用がかかっており、航空機本体だけで約$47億ドルの費用が見込まれている。これほど高額な航空機は過去に例がなく、これ以外にメリーランド州アンドリュース空軍基地に建設予定の約$2億5,000万ドルの巨大新格納庫などの追加費用が発生する。VC-25Bの取扱マニュアルだけでも数千万ドルの費用がかかる。
新しいエアフォースワンの威信、膨らむコストと遅延、そしてトランプ大統領の豪華航空機への執着と経験が、第45代・第47代大統領がこのプログラムに個人的な関心を示す要因となっている。
トランプは、ジェット機のコストを削減したと主張しているが、その主張には議論の余地がある。再選後、彼はプログラムを軌道に戻すため、さらに積極的に取り組むようになった。
今年初めの報道によると、トランプは2機のVC-25Bの納入を加速する方法を検討し、その一環で事業に携わる職員のセキュリティクリアランスの緩和も検討されている。
トランプ大統領が最初の任期中に選んだ塗装を施したVC-25Bのレンダリング。写真:Alex Wong/Getty Images Alex Wong
「政府効率化省」(DOGE)の実質的なリーダーとされるイーロン・マスクも招き入れられた。
ボーイングのCEOケリー・オルトバーグは今年1月、CNBCに対し「イーロンと協力してスケジュールを前倒しする方法を模索している」と述べていた。「イーロン・マスクは要件の整理に非常に協力してくれており、これによりより迅速に大統領に航空機を納入できるよう努めています」。
こうした努力がVC-25Bプログラムの活性化にどれだけ成功しても、スケジュール内に航空機を就役させることは期待されていない。
このため一時的な「エアフォースワン」の候補として、元カタール航空の747-8が選ばれたとの報道が出てきた。
最新の報道によると、L3ハリスは既に、超豪華な747-8iを米国大統領専用機に変換する計画で選定された可能性がある。同社は、この規模と範囲のプロジェクトを遂行できる数少ない企業の1つで、他の主要な請負業者としては、以前747機体をベースにした高度に専門化されたサバイバブル・エアボーン・オペレーションズ・センター(SAOC)機材の納入を請け負ったシエラ・ネバダ・コーポレーション(SNC)がある。
オハイオ州デイトンにあるSNCの新ハンガー内の747-8の内部と外部のレンダリング。SNC
それでも、この航空機がボーイングが空軍1号機として改造中のVC-25Bより大幅に早く運用開始できるかどうかはわからない。改造された元カタール航空のジェット機の早期導入には、VC-25Bと比べ大幅に仕様を削減した航空機が必要となる。
昨年12月、マスク氏がテキサス州サンアントニオのボーイング施設を訪問し、VC-25Bの生産加速方法を検討した際、その可能性の一端が示されていた。セキュリティクリアランス問題に加え、マスクはプログラムに組み込まれた飛行試験の期間についても批判的だったと報じられている。
「軍事装備を大幅に削除し、大統領が商業用機能を備えた新しい機体で飛行できるようにし、最小限の軍事アップグレードを加えるというアイデアでした」と、マスクのサンアントニオ訪問後に匿名元国防総省高官がニューヨーク・タイムズに語った。
エアフォースワンに類似したジェット機を迅速に導入する方法は存在するが、最終製品が「政府機能の継続」という重要ミッションの厳格な要件を満たすかどうかは極めて疑問だ。これには、核抑止力の基盤となる国家指揮権限(NCA)との即時接続能力や、核戦争を含む極限状況下での運用能力が含まれる。このような航空機には、電磁パルス(EMP)への耐性強化、広範なセキュア通信システム、大規模な発電能力、非常に包括的な自己防衛システムなど、数多くの主要な改修が不可欠だ。
以前も指摘したように、元カタール航空の747-8はこれらの厳しい要件を満たすのに適さない。そこで空軍が「1年以内に暫定的なジェット機を運用開始する」と述べた点を考慮する必要がある。
トランプとマスクには他のアイデアがあるかもしれない。その一つは、元カタール機を、大統領の空輸任務の既存要件に適さない基本的な構成で運用することだ。その後、最終的に納入された「フルスペック」のエアフォースワンを運用する可能性がある。しかし、これはホワイトハウス、シークレットサービス、空軍にとって問題を引き起こすだろう。大統領が空中で活動する際の全手順を再構築する必要が生じるためだ。大統領の安全リスクも増加し、既存の要件を満たす能力を持つ航空機がないことを前提に、重大な緊急対応策を構築する必要が生まれる。
現在の機体色を再現したVC-25Bのレンダリング。米国空軍
次に予算の問題がある。代替機プロジェクトの資金はどのように調達されるのか?機体自体に数百億ドルかかり、通信や防御システムの最小限の改修だけでもさらに莫大な費用がかかる。テストも必要であり、VC-25Bが完成した後は、その機体はどのように扱われるのか?これらすべてを解決する必要がある。また、DOGEの時代に、大統領が数年間新しいジェット機を楽しむだけの暫定的な代替機調達を急ぐことは、多くが「無駄の極み」と批判するだろう。特に、既存のVC-25Aがまだ運用中で、国内旅行ではC-32A機群がエアフォースワン任務を頻繁に遂行している現状では、なおさらだ。
これらを考慮すると、この計画はかなり現実離れしているように思えるが、一つ確かなことは、トランプ大統領がエアフォースワン計画に引き続き強い関心を示している点だ。さらなる劇的な展開がないとは言い切れない。■
Is An ‘Interim’ Air Force One Replacement Even Feasible?
Reports state that Trump is looking to convert a Qatari royal flight 747 into a less exquisite Air Force One as Boeing's delays on the VC-25Bs stack up.
Published May 2, 2025 2:39 PM EDT
https://www.twz.com/air/is-an-interim-air-force-one-replacement-even-feasible
トーマス・ニューディック
スタッフライター
トーマスは、軍事航空宇宙分野と紛争に関する報道で20年以上の経験を持つ防衛分野のライター兼編集者です。数多くの書籍を執筆し、編集を手がけ、世界有数の航空専門誌に多数寄稿しています。2020年にThe War Zoneに参加する前は、AirForces Monthlyの編集長を務めていました。
0 件のコメント:
コメントを投稿