電動航空機の規模はどこまで拡大するか。100人乗りリージョナル機構想を米新興企業が発表。

 電動航空機はどこまで現実になるのでしょうか。その鍵を握るのがバッテリー技術であることはあきらかで全固体電池もそのひとつですが、有望な技術が手の届くところまでそろってきました。航空機の構造もこれまでの常識を破るものとなれば、民生航空の世界も大きく変わりそうですね。ただし、当面はリージョナル航空が主な舞台になりそうです。技術がどんどん進歩していくのでビジネスも対応を迫られますね。Aviation Week記事からのご紹介です。


An array of 22 electric ducted fans is integrated into the leading edge of the Whisper Jetliner’s wing.

Credit: Whisper Aero


ウィスパーエアロ、100席の電気旅客機コンセプトを発表


ウィスパー・ジェットライナーの主翼前縁には、22基の電動ダクトファンが組み込まれている。

クレジット:Whisper Aero


超静音推進装置の開発会社ウィスパー・エアロWhisper Aeroは、2050年までに航空業界が排出量ゼロを達成できるよう、100人乗りのバッテリー式リージョナル旅客機のコンセプトを提案している

 ウィスパー・エアロは米国の新興企業で、NASAのプログラムのもとで、このコンセプトをさらに発展させる提案書を提出した。

 ウィスパー・ジェットライナーは、翼の前縁に組み込まれた電動ダクト・ファンを備え、上面に送風を行う。これにより揚力係数と翼面荷重が増加し、巡航揚力対抗力比が向上する。

 2023年6月にスタートアップが発表した9人乗りのウィスパー・ジェット・コンセプト機と同様に、ジェットライナーは水平尾翼をアウトボードに配置し、水平尾翼と垂直尾翼は翼端のブームに取り付けられている。これにより、水平尾翼は翼の上面吹き出しによるダウンウォッシュを受けない、とウィスパーCEOのマーク・ムーアMark Mooreは言う。

 同社は、NASAのAdvanced Aircraft Concepts for Environmental Sustainability(AACES)プログラムで、2050年までにネットゼロ航空実現への道を提供する目的で設計開発の提案を提出した。フェーズ1では、総額800万ドルの資金が提供される。

 AACESは、2010年のNASAのN+3研究に続くもので、2035年に就航可能な超高効率旅客機のコンセプトを開発する。ここからNASAのボーイングX-66Aサステイナブル・フライト・デモンストレーターが誕生し、2028年にロングスパン、低ドラグの遷音速トラスブレース翼の飛行試験が計画されている。

 ウィスパーは推進システムの開発会社であり、9人乗りと100人乗りの両コンセプトの目標は、超静音で超効率的な電動ダクテッドファンが、バッテリー駆動のリージョナル航空機を示すことである。

 「ゼロ・エミッション航空機に移行し、既存の航空機を退役させることが合理的な経営判断となるように、バッテリー電気航空機が炭化水素ベースのソリューションに勝てるかどうかを確かめたかったのです」とムーアは言う。

 「当社の技術が今後20年間でどのような方向に向かうのか、そしてそれが他の技術革新、特にバッテリー電気による地域モビリティ市場の活性化とどのように一致するのかを予測したかったのです」とムーアは付け加える。

 2020年に設立されたウィスパー社は、推力10ポンドのスラスターを55ポンドの無搭乗機で飛行させたが、米空軍のAFWERXイノベーションユニットとの契約により、推力数千ポンドまで電動ダクトファンをスケールアップすることを研究している。

 同社のイアン・ヴィラIan Villa最高執行責任者(COO)は言う。「当社の基礎となる技術は、拡大可能です。「当社はすでに、最初の概念実証である10ポンドの超静音・超効率スラスターの8~10倍の推力を発生できる量産可能なスラスターを製造し、テストしています」。

 NASAのAACESプログラムに入札するために、ムーアは言う。「当社はコンセプトをまとめました。当社の技術予測されるもが、実現可能な航空機のコンセプトと一致し、2050年という時間枠でネット・ゼロ・エミッションを達成するためにどのような合理的な期待があり、またそうあるべきかの段階を設定することができる確信があったのです」。

 民間航空機のマッハ0.78の巡航速度では、ウィスパーの推進システムのファン圧力比は理想に近い1.2であり、ギアード・ターボファンの1.4と比較すると、推進効率は5〜10%高い、とムーアは言う。

 ジェットライナーには22のダクトファンがあり、各1メガワットの電動モーターで駆動され、1,970ポンドの推力を発生する。総重量はエアバスA220-100の139,000ポンドに対し160,000ポンド。このうち、14.6メガワット時のバッテリーは51,250ポンド(エネルギー重量割合32%)を占めるが、A220の燃料は39,000ポンド(28%)である。

 ウィスパーは、2050年までにバッテリーのエネルギー密度を、セルレベルで800Wh/kg以上、パックレベルで640Wh/kgになると予測している。これにより、航続距離は770マイル(4メガワットのタービンをベースとしたレンジ・エクステンダーで予備エネルギー需要を賄う)となり、A220の3,500マイルと比較される。

 しかし、500マイルの旅にかかるエネルギーコストは、ジェットライナーが733ドルであるのに対し、A220は2,100ドルである。「私たちは、既存の炭化水素ベースのタービンが1,000マイル未満の航続距離では太刀打ちできないところまで到達しようとしています」。

 バッテリーの償却費は、バッテリーのリサイクルが確立されるにつれて変化するとウィスパーは見込んでいるため、この計算には含まれていない。ムーアも「バッテリーの量が多い」と認めている。「1キロワット時あたり400ドルとしても、600万ドルのバッテリーです」。

 このバッテリーは一般的なアメリカ国内旅行で70%放電され、45分で再充電され、ウィスパー社は2,000〜2,500サイクルの耐用年数を見込んでいる。全固体電池が実用化されれば、10,000サイクルまで延びる見込みだという。

 ムーアは、オランダの新興企業エリジアン・エアクラフトElysian Aircraftが1月に発表したエアバスA320より大きい90人乗り電気航空機のコンセプトの背後にある「大きいことは良いことだ」という考え方を繰り返した。

 「実際、大きければ大きいほど効率は高くなります。空虚重量率が低いほど、より多くの航続距離を確保するためにバッテリーの質量割合を増やすことができるのです」と彼は言う。

 ウィスパーは、サウスウエスト含む航空会社が、収益性の低い路線が廃止したため、平均飛行距離が401マイルから678マイルに伸びたことに触れ、「ジェットライナーのコンセプトは、中規模都市にまたがる地方空港を活性化させるために、典型的なアメリカ国内距離で必要とされる航続距離を満たすことができる」と言う。

 ウィスパーのNASA向け提案は、航空システムの中でジェットライナーを総合的にとらえ、米国の小規模空港数千箇所から運航し、小規模な地域社会への旅客・貨物航空サービスを回復させることにある。

 「騒音が少なく、すべての空港を開放し、地域社会に影響を与えず夜間も運航できる推進システムが設計できれば、夜間でも貨物便の運航が可能になります」とヴィラは言う。

 「私たちは、この航空機をどのように旅客機に使用できるかだけでなく、大型パレットにどのように使用できるかも検討してきました」と彼は言う。アウトボード水平尾翼は、後部胴体の構造をなくし、尾翼をスイングオープンさせ、旅客席や貨物パレットを "カセット "として積み込むことができる。

 地上では、翼端のブームを回転させて機外水平尾翼を垂直位置まで上げることもできるため、機体のスパンが短くなり、空港の狭いゲートエリアを利用できるようになるという。■


Whisper Aero Unveils 100-Seat Electric Airliner Concept

Graham Warwick March 04, 2024


https://aviationweek.com/air-transport/aircraft-propulsion/whisper-aero-unveils-100-seat-electric-airliner-concept



Comments

Popular posts from this blog

GE, P&W、エンジン部品の素材で重大な損傷に繋がりかねない不良が見つかる。FAAが改善命令を近く発出の模様。品質管理があきらかに不足しているのか。

航空会社にとってエアバス、ボーイングの売れ筋ナローボディ混合フリートのメリット、デメリットとは?

エアバスが中国COMACのC919に警鐘を鳴らす---「見て見ぬふりはできない」