地球外での資源開発が事業として成り立つ時代がやってくる。月面ヘリウム採掘事業の一番乗りを目指すスタートアップ企業インタールーンに注目(Forbes)

 

月面ヘリウム採掘事業の一番乗りを目指すスタートアップ企業インタールーンに注目(Forbes)

インタールーンの採掘作業の想像図。

インタールーン


インタールーンは月面でヘリウムガスを採取するロボットを開発中だ


ンタールーンInterluneのロビーには、幅約90センチの卓上ジオラマが展示されている。シアトル発のスタートアップ企業が月面で実現を目指す採掘作業を、おもちゃサイズの理想郷として再現したものだ。箱型の自律走行車両が月面の表土を掻き集め、貴重なヘリウムを含むガスを放出させるために粉砕する。車輪付きプラットフォーム上のソーラーパネルが電力を生成する。

 片隅には、軍事用ミサイル発射装置を思わせる箱が置かれ、その中にはガスを地球へ運ぶ小型ロケットが積まれている。

 インタールーンが目指す事業は子供だましではない。パーティー用風船のガスとして知られるヘリウムの同位体で、産業的に価値の高いヘリウム3は地球上では極めて希少だ。エーデルガス・グループの報告書によれば、2024年には1リットルあたり2500ドル(約1900万円/kg)で取引された。インタールーンのロブ・メイヤーソンCEOは、採掘機5台のみの設備で年間10kg以上のヘリウム3を生産可能と予測。その価値は約2億ドルに上る。

 同社はこの目標達成に向け、困難な課題に挑戦している。月面には多くのヘリウム3が存在するものの、決して豊富とは言えない。仮にインタールーンが濃度が高い月域を発見できたとしても、商業的に採算の取れる量のヘリウム3を回収するには、月面開発機械を開発し月へ輸送する必要がある。この機械は、数十億年にわたる微小隕石の衝突で月面を覆う緩い破片「レゴリス」を数百万トン単位で処理しなければならない。自律的に。地球上のどんな物質よりも研磨性の高い塵を巻き上げながら稼働する機械を、地上要員なしで修理する必要がある。「それが我々の真価を発揮する分野だ」とメイヤーソンは本誌に語った。

 コンプレッサーから高音の甲高い音と激しいシューッという音が響き渡る。これは同社が卓越する必要があるもう一つの要素、超低温蒸留装置の存在を告げている。インタールーンは、月面上のレゴリスを粉砕して得られるガスのうち、ヘリウム3の含有率は1%未満と見込んでいる。その存在量は10億分の1~10億分の数十程度と推定されている。気球用ヘリウムや水素からこれを分離するため、全ガスを華氏マイナス450度(摂氏約マイナス268度)以下まで冷却する。この温度で他のガスは液化し、ヘリウム3を分離できる。

 「おそらくこれが(我々にとって)最も困難な課題だが、著しい進展を遂げている」と、インタールーンの最高技術責任者(CTO)ゲイリー・ライは語った。

 コロラド鉱業大学の宇宙資源学教授クリス・ドレイヤーは、仮にインタールーンが初の月面採掘基地を設立できたとしても、設備のコストや信頼性、そして月面表土中のヘリウム3の実際の含有量といった未知数が多いことから、経済的な実現可能性は依然として不透明だと指摘する。「最初の数回は採算が取れなくても驚きません。しかし長期的には可能になるかもしれません」。

 スターパスアイスペースなど、月面の水や鉱物を活用してロケット推進剤を製造したり構造物を建設したりする方法を開発するスタートアップが多数存在する。アストロフォージのように小惑星で貴金属を採掘し、地球の資源採掘を減らそうとする企業もある。しかし多くの課題があるにもかかわらず、インタールーンは資源を地球に持ち帰るビジネスを短期的に構築できる可能性が最も高い企業の一つかもしれない。その理由の一つは、同社が当面の間、自社技術を収益化する方法を持っているからだ。

 軽量かつ高価値であることから、ヘリウム3は最初に着手すべき元素として広く認識されている。太陽で生成されたヘリウム3は、地球の大気と磁場によって跳ね返された太陽風により月に堆積する。科学者たちは核兵器や原子力発電所におけるトリチウムの崩壊によって生成されるヘリウム3を回収する方法を確立しているが、その収量は年間20kg未満にすぎない。

 ヘリウム3は主に、核爆弾や密輸された放射性物質から放出される中性子を検出する保安スキャナーに使用されている。9.11以降、数万台の検出器が港湾や国境検問所に配備されている。

 しかしその強力な冷却能力を求めて、他の分野でも需要が高まっている。グーグルアマゾンIBMといった企業は、量子コンピュータを絶対零度に近い温度まで冷却するためヘリウム3を利用している。この温度域では量子コンピュータの動作効率が向上する。

 究極の目標は、ヘリウム3を燃料として核融合によるエナジー生成に利用することだ。この方法なら放射線は発生しない。



CEO ロブ・メイヤーソン

インタールーン


 インタールーンは1800万ドルの資金調達を実施しており、内1500万ドルは2024年のシードラウンドで、Redditの共同創業者アレクシス・オニアニアンのセブン・セブン・シックスが主導した。パートナーのカトリン・ホロウェイは月面ヘリウム3の採掘が必然と見ており、インタールーンの「驚異的な」経営陣が計画を実行する経験を有すると確信している。ジェフ・ベゾスのブルーオリジン元社長メイヤーソンと、同社のニューシェパードロケットプログラムを統括したライが率いる同社は、2029年に月へ掘削機1台を送り込むパイロット採掘計画に向け、既に顧客2社を獲得している。米国でヘリウム3供給を管理するエナジー省は今年春、インタールーンと3リットル分の契約を締結した。2029年に市場価格で納入される。量子コンピュータ用冷却システムを手掛けるメイベルも今後10年間で数千リットルの購入に合意している。

 インタールーンが計画を達成するには、さらに巨額の資金が必要となるがメイヤーソンは具体的な金額には言及しない。NASAとの研究契約でインタールーンと協力するドレイヤーは、同社が構想する採掘システム一式(掘削機5台、処理装置、動力用太陽電池アレイ、往復輸送システム)を運用するには数十億ドルではなく数億ドルが必要と試算する。

同社は月面到達前に、技術の地上の応用分野を見出すことで、顧客からの資金調達を計画している。インタールーンは天然ガスからヘリウムを抽出する企業に対し、同社の蒸留装置で微量のヘリウム3を分離するよう提案している。メイヤーソンは年間1キログラム(約2000万ドル相当)の生産拡大が可能と試算する。


Rendering of a tilled lunar surface

インタールーンの採掘作業を表現したアーティストの図。同社は太陽電池パネルで発電し、約14地球日に及ぶ月日中に採掘機を稼働させる計画だ。インタールーン


もう一つの近期的事業:地球上で宇宙土壌を製造する。同社は採掘機の試験用にガスを注入した模擬月面レゴリスを大量に必要としており、他社や政府機関も自社の宇宙機器試験用にこれを購入したがっている。インタールーンはテキサス宇宙委員会から480万ドルの助成金を獲得し、レゴリス模擬物質の開発と量産を進めている。

 インタールーンの提唱者であり精神的指導者であるのは、89歳の元宇宙飛行士ハリソン・シュミット(現会長)。1972年のアポロ17号(米国最後の有人月面着陸)で月面を歩いた唯一の地質学者であるシュミットは、1980年代から月面ヘリウム採掘を提唱してきた。ウィスコンシン大学チームと共に、ヘリウム3を用いた核融合の可能性を探求し、採掘装置のコンセプトを開発した。

 2018年にメイヤーソンがブルーオリジンを離れる際、シュミットは彼に月面採掘の検討を説得した。シュミットは、アポロ計画のサンプルよりも2~3倍高いヘリウム3の濃縮が存在すると思われる月の赤道付近の表側の領域を同社が特定するのを支援した。さらに彼は、ヘリウム3を採取するインタールーンの手法開発にも貢献している。

 インタールーンはまた、月面掘削機製造において意欲的で適任なパートナーを、建設・鉱業・農業機器メーカーである売上高10億ドル規模のバーミアのCEO、ジェイソン・アンドリンガに見出した。NASAで火星探査車の開発に携わった経験を持つアンドリンガは、アイオワ州に本社を置く自社の機器を月面や火星での使用に適応させることに長年関心を寄せてきた。

 インタールーンが開発中の機械を「ハーベスター(収穫機)」と呼ぶのは、その動作が農場のコンバインに似ていると捉えているためだ。移動しながらレゴリス(月面土壌)を摂取し、処理済みの物質を後方に排出することで、耕された畑のような表面を残す。電気自動車ほどのサイズで、採掘機器としてはわずか数トンと軽量設計だ。宇宙に打ち上げるものには軽量化が重要だが、重力が6分の1の月ではこれが問題となる。質量が少ないと、採掘機器が下向きの力を加えた際に地面に固定しにくくなるのだ。


Interlune's excavation prototype

5月、バーミアとインタールーンは、アンダーカッティングオーガー(回転スクリュー)を備えた実物大プロトタイプを公開した。このスクリューはレゴリスを機械内部に引き上げると同時に、車両自体を地表へ押し下げる役割を担う。インタールーン


この装置は月の過酷な環境条件に耐えねばならない。地表の大部分は風や水による風化を受けないため、鋭い縁を持つ微細な塵で構成されている。アポロ計画では、この塵が宇宙服のブーツやサンプル容器のシールを侵食し、採集装置に固着した、とシュミットは述べた。

 さらに、昼間の赤道付近で華氏250度(約121℃)、夜間はマイナス410度(約249℃)という極端な温度変動による金属部品の膨張・収縮というストレスも加わる。

 NASAは探査車や着陸船への塵侵入を防ぐ密封技術を習得したが、鉱石粉砕作業は経験していない。科学ミッションでは数グラムの物質しか採取していないとドレイヤーは指摘する。インタールーンは採掘機が1時間あたり100トンのレゴリスを掘り起こすことを目指している。バーミアとインタールーンは、摩耗部品をロボットで交換可能な機械設計を検討中だ。

 設備コストはどの程度か?メイヤーソンは現時点で議論するのは時期尚早と述べる。ドレイヤーは初期バージョンの採掘機が約2000万ドルと見積もる。

 量産化でコストは大幅に低下する可能性がある。「全体的な計画において、機械自体のコストはそれほど膨大にはならないだろう」とアンドリンガは語った。「圧倒的に大きなコストは月面へ打ち上げることに費やされるでしょう」。

 インタールーンの開発スケジュールは、スペースXの巨大ロケット「スターシップ」が2030年代初頭までに月面輸送サービスを開始する見通しに基づいている。同社は同時期に本格的な採掘事業を開始することを目指しているが、先週の成功にもかかわらず、スターシップの連続した試験打ち上げ失敗が目標達成を脅かしている。インタールーンが成功を確信する理由の一つは、スターシップが約束する打ち上げコストの大幅削減だ。スペースXは同ロケットの低軌道到達コストの当初見積もり1億ドルを2000万ドルへの削減を目標としている。また、100トンのペイロード能力を持つスターシップなら、インタールーンの採掘キャンプ1か所分の設備を1~2回の輸送で運べるはずだ。しかしメイヤーソンは、ブルーオリジンが開発中の月面着陸船や小型代替機も使用可能だと述べた。ただしその場合、打ち上げ回数が増え、コストも高くなる。

 もう一つの重要課題は採掘地点の分析精度だ。インタールーンは今年後半、アストロラブ探査機に搭載した分光カメラを月面へ送り、遠隔地から撮影した月面地質画像の解釈が正しいか検証する。2027年には目標地点の一つで試掘ミッションを実施し、土壌サンプルを分析する。

 インタールーンは採掘を超えて、米国が月面に迅速にインフラを構築する支援にも貢献したい考えだ。バーミアと共同開発中の掘削技術は、月や火星で道路や溝を建設し、ユーティリティラインを設置するのに役立つとメイヤーソン氏は語る。将来的には工業用金属、希土類元素、ロケット推進剤原料の採掘へ拡大する構想だ。

 とはいえ第一歩はヘリウム3である。

 シュミットは幼少期、鉱山地質学者である父を助け南西部で銅やその他の金属の探鉱に従事した。ついに月で鉱脈を発見するという夢を実現できるかもしれないことに興奮している。彼はこれが地球に大きな影響を与えると確信している。「供給源が確立されれば、新たな可能性が次々に開けるだろう」。■


This Startup Is Racing To Be The First To Mine Helium On The Moon

An artist's rendition of an Interlune mining operation.

Interlune

ByJeremy Bogaisky,Former Staff. Senior editor covering aerospace and defense

Sep 02, 2025, 06:30am EDTUpdated Sep 2, 2025, 06:26pm EDT

https://www.forbes.com/sites/jeremybogaisky/2025/08/29/moon-mining-heiium-interlune/?ss=aerospace-defense


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