キエフ、ボルィースピリ国際空港に到着したルフトハンザ機。November 2021. IGOR GOLOVNIOV/SOPA IMAGES/LIGHTROCKET VIA GETTY IMAGES
部隊を侵攻させなくても、ロシアはウクライナへの狙いを実現できる
標識を消した兵員輸送トラックをウクライナ東部に移動する以前からロシアによるウクライナを世界から孤立させる作戦は始まっていた。
2月21日にルフトハンザ、スイスエアラインズ両社がウクライナ首都キエフへの定期便運行を取りやめ、ルフトハンザはオデッサ便も運行停止した。エールフランス、SASもキエフ便運行を停止した。ウクライナへ飛ぶエアラインはわずかになっている。同国空域は高リスクとの認識で、エアライン側にウクライナを世界につなぐ状態を維持する義務はない。
通常ならフランクフルトからキエフへの移動手段は選択に迷うほどだ。だが、今は、ワルシャワで乗り継ぎが必要となる。LOTポーリッシュエアラインズがウクライナ首都キエフ、黒海沿岸のオデッサに運行を継続する数少ないエアラインの一角だ。キエフのボルィースピリ国際空港Borispyl International Airportの到着便案内はごくわずかになっている。LOT、ライアンエア、ウクライナのウクライナ国際航空UIAとウィンドローズエイビエーション、FlexFlight、エアセルビアくらいだ。一方で同じキエフのシコースキ国際空港ではWizzairと国内線運行数社しか残っていない。
ルフトハンザグループ(ルフトハンザ、スイス)同様に大抵のエアラインはキエフ、オデッサ両路線の運行は危険と判断している。さらにポーランド国境に近いリヴィウ線も高リスク路線とされている。リアルタイムで航空輸送の状況がわかるFlightradar24でウクライナの孤立ぶりは明らかだ。隣接するポーランド、ルーマニア、ハンガリーは活発で、ドイツやフランスは言うまでもない。これに対しウクライナ上空は閑散としている。同国空域を通過するエアラインも皆無に近い。
だがルフトハンザグループ発表にはソーシャルメディアで怒りの声が殺到した。「ロシア線の運行を止めろ」など。だが、ソーシャルメディア利用の皆様、エアライン側の事情をご理解ください。ウクライナ路線の運行停止は制裁措置ではない。ウクライナ空域の飛行が危険と判断されているためにすぎない。マレーシアエアラインズ17便がウクライナ東部で撃墜された8年前の記憶は強く残っている。各社も有事を意識し、機体や乗客への危害発生を恐れている。地上空中問わず、いったん人命喪失となれば収益が落ち、風評での損失は計算できないほどになる。
エールフランスやルフトハンザ同様の判断をしているエアラインは多数ある。各国政府も多くが自国民にウクライナから退避を推奨しており、エアライン各社のビジネスが成立しなくなってきた。とはいえ、最小限の需要がある限りエアラインは運行を維持する。着陸スロット権の維持が必要だからだ。COVIDによる最悪状況でも、乗客皆無の「ゴーストフライト」を運行するエアラインが大部分だった。
だがキエフやオデッサ発着便を完全停止したり、リヴィウ運行も同じ扱いとするエアラインが多数生まれている。「ウクライナ空域は完全回避し全便をウクライナ国境に近づけない」とあるヨーロッパ大手エアライン幹部が筆者に語っている。大手航空コンサルタント企業はウクライナ国内空港すべてを高リスクに区分したと通知あした。自社の機材、乗務員、利用客をこのような状況で運行できると判断するエアラインがあるだろうか。
それでも運行する会社も数日以内に運行停止するだろう。保険会社はウクライナ空域の安全に神経質になっており、2月初めにUIAの国内線が補償対象外となった。今後大規模侵攻が現実となれば、すべての保険が24時間以内に補償対象外にされる。
エアラインによる運行停止はウクライナ孤立政策の一環にすぎない。ロシアはアゾフ海や黒海沿岸ウクライナ港湾の利用を危険にしており、ウクライナ向け海上輸送を麻痺させている。投資機関や国際金融市場はウクライナの信用度を下げた。
ウクライナ政府からエアライン側に財務保証を与えて保険料金高騰に対応すると発言があるが、現実はそのとおりには行かない。エアライン側には危険国への運行を継続する義務が存在しないし、海運会社にも危険水域経由で貨物輸送を続ける義務もない。ロシアが部隊を侵攻させなくてもウクライナの弱体化は不可避だ。隣国を痛めつけようと考える国がロシア以外には存在しないと考えるのではあまりにも非現実的すぎる。■
Russia Is Choking Off Air Travel to Ukraine - Defense One
SENIOR FELLOW, AEI
FEBRUARY 22, 2022 01:07 PM ET
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